働く環境や、手掛けている新規事業、これからの新しい働き方について建築家の関谷昌人さんと代表取締役の沢井啓秀が語り合いました。
◆関谷昌人 建築家・一級建築士。高知県出身。住宅メーカーの設計部門勤務を経て、2001年に『PLANET Creations 関谷昌人建築設計アトリエ』として独立。朝日放送テレビの人気番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」に匠として度々出演している。 https://planet-creations.jp/
◆沢井啓秀 『株式会社JITSUGYO』代表取締役。『株式会社帆風』を経て、2009年より現職。2014年に『実業印刷株式会社』から現在の社名へと変更し、同年に新社屋を建設。同社にて、クリエイティブで新しい働き方を推進している。
◆聞き手 小久保よしの/フリーランス編集者・ライター 埼玉県所沢市出身。移住先を探すため6年かけて全国各地をまわり、2017年に「奈良だ!」と東京から移住。本名である名前の由来は奈良・吉野の地名で、勝手に縁を感じている。
オープンでかっこいい、クリエイティブな新社屋
——仕事では「どういう環境で働くか」は重要だと思います。新社屋を手掛けられた関谷先生は、どういう思いで設計されたのでしょうか。
関谷昌人先生(以下、関谷):以前の本社は築40、50年の古いビルで、「面接でビルを見て帰った人がいた」と会長から聞いたことがあったんです。だから新社屋では、社会に対する『株式会社JITSUGYO』さんのイメージをより良くしたいという目標がありました。ビル全体からクリエイティブな感じを醸し出したい。そのためには「権威的にしない」ことが必須です。立派で権威的なビルを望むオーナー様は多いのですが、『株式会社JITSUGYO』さんにはすぐご理解をいただきました。
世の中では、社会との関係性は会社の看板のみいうビルも珍しくありません。新社屋では外から中の様子がちらっと見えて、社会とのつながりを常時保つことによって権威的ではない新しいビルのあり方を示せるのではないかと。
——ガラスを多用されていて、開放的だと感じます。中の設計はどう考えたのですか。
関谷:新社屋は営業職や事務職の方がいらっしゃる棟で、隣接した制作メンバーのいる棟はリノベーションをしました。
新社屋は、以前は各セクションが仕切られていなかったんです。何かあればすぐ声をかけられるけど、適度に距離があるオフィスをイメージしました。また、来客が多いため、内部をできるだけ社会に開き、そこで働く人も周りの景色や時間の流れが感じられる建築を目指しました。
一方で制作メンバーの棟は、クリエイターは集中したいときがありますから、ある程度セパレートした空間に。
——時間の流れが感じられるのは、開放的にしたから?
関谷:そうです。超高層ビルにいたら、天気が分からないですよね。ここは外が見えやすく、天気や人通りなどが感じられるよう開放的にしています。オフィスとしては、セクションごとに壁で仕切る代わりにフロアの高さを変え、エリアをゆるやかに区切っています。訪れる人が「おもしろいことをしている会社なんだな」とワクワクできればいいなと。隠したいときには扉を閉めて多少隠せる機能もあります。
——こういう造りのビルは珍しいですね。
関谷:構造はスチールの無垢の柱を2本抱かせた、モノストラクト工法です。従来の鉄骨造に比べ、細い柱だけでできていて木造のような軽やかさをもった空間となっています。腕のいい構造家に頼みましたけど、僕にとってもチャレンジでした。施工担当の方たちは、地面から3階部分までこの柱を真っ直ぐ建てるのは大変だったみたい。図面で描くのは簡単だけど、実際に建てる方たちは大変ですよ(笑)。
沢井啓秀(以下、沢井):明るいですし、働いていて広く感じます。
関谷:あまり照明をつけなくても明るいよう、だいぶ考えました。都会に多い高層ビルって、中が区切られていて“その部屋の大きさ”しか感じないんですよね。でも僕は「どこにいても建物全体が分かる・感じられる」のがいい建築だと考えているんです。
——若い社員さんがエントリー前にビルを見に来て、かっこいいオフィスだったからエントリーしたと聞きました。
先生:「こういうオフィスで働いてみたい」と思ってもらえたならうれしいです。さっき話したような社会とのつながりが、うまくいったのかなと思います。
打ち合わせがしやすく、やりたいことに集中できるオフィス
——新社屋は、2015年に「JIA 優秀建築選」に掲載され、2016年に「日事連建築賞」優秀賞、「第29回日経ニューオフィス賞」奨励賞を受賞しています。新社屋を見た周囲の反響はいかがでしたか?
沢井:営業などで会社案内を見せたときに「あぁ、『イオンモール大和郡山』の近くの、あの変わった建物!」とよく言われます(笑)。周知されているんだなと。目立つ建物なので、何の会社かと聞かれることも多いですね。
関谷:僕も、ここを担当させてもらったことを人に話すと「あの変わったビルか」と分かってもらえます。それでええわけですわ。おもしろいと思ってくれているんですから。
沢井:えぇ。新社屋が竣工した後、弊社の創立60周年があり、自分の家族がどういうところで働いているのかを見てもらおうと、社員の家族をここへ呼んだんです。
先生:家族に見せるのは、いい企画ですね。
沢井:どんなところで働いているかが分かったようで、とても好評でした。社員たちは、家族からより応援してもらえるようになったみたいです。また節目のタイミングで開催したいですね。
——社屋が変わることで、コミュニケーションや仕事の仕方は変わりましたか?
沢井:社外の方を呼びやすくなりましたね。打ち合わせや、最上階のセミナールームを使って研修やセミナーなどもしやすくなりました。また、やりたいことに集中できる環境も整っています。
新社屋が大きなきっかけになって、当初の目論見の一つだった若い人材が集まってきています。入り口かららせん階段を登って最上階へ至るまでに「変わった造りだな」と思ってもらえて、いい印象になっているようです。
アニメーションの新事業「伝わるアニメーション」が好調
沢井:以前は奈良県内の学校や官公庁が主なクライアントだったんです。でも新型コロナウイルスの流行で県内のイベントが中止や規模縮小となり、それに付随するものを数多くつくっていたので痛手を受けました。そこで2020年2月からアニメーション事業「伝わるアニメーション」に力を入れています。
ビジネスアニメーションは、広告ツールとしてアメリカで革命を起こしています。三つの特徴があって、一つ目はどんな年代にも注目されやすいこと。二つ目は複雑な内容を感覚的にわかりやすく伝えられること。三つ目が短時間で多くのことを伝えられて、人の記憶に残りやすいことです。
制作費はITツールの飛躍的な向上で以前の10分の1ほどになっていますし、1回目のミーティングから最短でわずか1週間で納品可能なんです。
関谷:コロナによって新しい展開が求められて、新事業ができているなら、よかったですね。
沢井:おかげさまで都内の一部上場企業や海外の外資系企業からも受注し、加速しています。今は月に一度、無料オンラインセミナーをやっているのですが毎回50人ほど参加いただいています。
関谷:アニメーションはどういうところで公開されるんですか。YouTube?
沢井:はい、YouTubeやSNS、公式サイトで流す人が多いです。企業が社内向け教育で活用したり、営業マンが自社のことやサービスを知ってもらうツールとして利用したりしています。
——逆境をチャンスに変えたんですね。
沢井:「伝わるアニメーション」を始めて、全国の一般企業がマーケットになりました。これまで続けてきた紙媒体の制作や印刷はもちろんですが、WEBや動画にも広げて「伝えること全般」を担っていきたいです。どの伝え方がクライアントにとって最適か、アドバイスできる立場になりたいですね。
——63期目を迎える老舗の印刷会社という印象がありましたが、積極的に新しいことにもチャレンジされているんですね。
奈良にいながら、新しい働き方ができる!
沢井:事業をさらに大きくしていく上で感じたのは、働き方が変わってきていることです。オンライン化が進んでいますし、都会ではなく「奈良で働くこと」もみなさんの選択肢の一つになれたらいいなと。
関谷先生の事務所は奈良アトリエのほか、京都アトリエと東京オフィスの3拠点をお持ちですよね。
関谷:えぇ。僕は奈良を中心に京都にもよく出社していて、東京オフィスは次男が担当しています。オンライン会議もしていますよ。20年前は、ビジネスで「奈良から世界へ」と聞いてもあまりピンとこなかったけれど、今はネットが発達して、海外のアワードやコンペに作品を発表しやすくなりました。海外の人から、弊社で「働きたい」と連絡をいただくことも多いです。世界中の人とつながりつつありますよね。
仕事の仕方も変わりました。以前は鉛筆を使って設計し、写真を撮ったら現像に出して、翌日あがってきた写真をコピーして朱書きし、さらにスキャンしてメールで送ったり郵送したりしていたんです。でも今はiPadで電車に乗りながら図面チェックをし、データ上で朱書きして、すぐメールで送れるようになりました。その時短はすごいです。
——場所を選ばなくなっているんですね。
関谷:そうやって奈良で働きながら、今でも九州の案件を手掛けていますし、県外の仕事は多いです。ネットで探し出してくださって、オファーをいただく流れが増えています。
——新しい働き方という観点で、『株式会社JITSUGYO』で「兼業OK」としているのはなぜですか?
沢井:本業は大事にしつつ、それ以外の仕事も経験してほしいという思いがあります。自身のスキルアップが期待できますし、それが本業に活きます。それに仕事って、やらされるとどうしても作業になってしまうので、自分から手を挙げてやるほうがクリエイティブな作品が産まれやすいし、自己承認欲も満たされると思っています。
関谷:テレワークはどうしてる?
沢井:やっていますよ。営業担当の場合は、直行直帰を認めています。
関谷:新型コロナウイルスの流行によって、これはテレワークでもいい仕事、これはテレワークでは限界があるなと感じる仕事があると分かってきましたよね。これからは使い分けて働くようになっていくんでしょう。ところで、子どもさんがいるスタッフは、どうしているの?
沢井:特に子どもが小さければ急な体調不良などが多いですし、無理せず有給などを使って休んでもらっています。子どもが3人いて、3回育休をとったスタッフもいます。子どもがいても優秀な方は多いですから、ご本人が仕事を希望するなら働いてほしいと思うんですよ。
3職種の正社員、パート、インターンを募集中
——スタッフを採用するときは、どこに気をつけているんでしょうか。
関谷:以前は経験の有無などで選んでいましたが、今は「常識があるか、ないか」を見ています。挨拶ができるか、電話の受け答えなど。
沢井:僕も、基本的なコミュニケーション能力を見ています。スキルは二の次で、人間性や土台がしっかりしていればいいんです。素直であれば吸収できますから。経験さえ積めば、スキルは後からいくらでも伸ばせます。
——今回『株式会社JITSUGYO』で募集するのは、どういう職種ですか?
沢井:営業、営業事務、デザイナーです。この3職種の正社員、営業事務とデザイナーのパート、大学生のインターンを募集しています。
——こういう人に来てもらえたら、という希望はありますか。
沢井:身に付けたいスキルに関して成長意欲と明確な目的があって、何かを「成し遂げたい」と思っている人がいいですね。また、そのスキルを活かして地域や奈良、社会に対して貢献をしたいという気持ちをもっている人だと相性がいいと思います。そんな人と共に成長していける組織にしていきたいですね。
——いいご縁があるよう、願っています。今日はありがとうございました。