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Mr. CHEESECAKEを「ブランド」にするために。デザイナー タカヤ・オオタがあえてやらなかったこと

「世界一じゃなく、あなたの人生最高に。」というコンセプトを持つMr.CHEESECAKE。

今回の登場人物は、デザイナー、タカヤ・オオタさん。女性向けメディア『MERY』やコスメ口コミアプリ『LIPS』、ベンチャーキャピタル『NOW』、そして青山ブックセンター……手がけた数々のロゴは話題を呼び、いずれもなくてはならない「顔」となっています。

企業やブランドの個性や存在価値をかたちにすることを得意とし、経営者たちからの信頼も厚いタカヤさんは、2019年夏のリニューアルから Mr. CHEESECAKE全体のアートディレクションを担当。サイトからパッケージまであらゆるデザインを一手に引き受ける、心強い存在です。

そんなタカヤさんにMr. CHEESECAKEとの関わりやデザイナーの視点から見た魅力を聞くと、淡々と、しかし愛と誇りとユーモアを混じらせて語ってくれました。

(※本記事は、Mr.CHEESECAKE JOURNALの連載「私とミスチと。」からの一部転載です)

「シズらせすぎないこと」が大切だった


ぼくが担っているのは、デザインの力で Mr. CHEESECAKEを「ブランドにすること」。このすばらしいチーズケーキの未来は自分にかかっているぞ——それくらいの自負を持っています。

……と、いきなり大きなことを言っちゃいましたけど、そもそも代表のタムさんと知り合ったきっかけはネギですからね。あるときぼくがTwitterで料理中のネギ写真をアップして切り方がわからないとつぶやいたら、見かねたタムさんがリプライをくれて。

そこからやりとりするようになって、しばらくは純粋に「仲のいいお兄さん」でした。直々に料理を教えてもらったり、SNSで何気ない絡みがあったり。で、2019年の春にnewn(※)の中川綾太郎さんを紹介したんですけど、それが縁でMr. CHEESECAKEをリニューアルすることになった。このときから、ぼくもデザイナーとして関わりはじめたんです。
(※現Mr. CHEESECAKEパートナー)

じつはぼく、食に関するデザインはまったく未経験でした。でも、タムさんとは波長が合うというか、好きなものと嫌いなものが同じというか……自然とそういう流れになったんですよね。タムさん、ぼくのポートフォリオを見たこともなかったんじゃないかな。

2019年7月のリニューアルを目指してまず決めたのは、ここまで多くの人に愛されてきた「ミスチ」を抜本的に変えるのはやめよう、ということでした。

たとえば、突然 Mr. CHEESECAKEが野心的な雰囲気の豪華なサイトをオープンしたら、なんかイヤだし引きますよね。「ああ、人気が出て変わっちゃったんだな……」みたいな(笑)。

なので、ファンの思いとのギャップを生まないことを念頭に、それまでの世界観や空気感、デザインの方向性は変えなかったんです。ロゴも、言われないと気づかないくらいの細かいアップデートに留めています。



大前提として、 Mr. CHEESECAKEってめちゃめちゃおいしいんですよ。ぼくが言うまでもないんですけど。

でも、このチーズケーキのいちばんの魅力ってなんだろう? とタムさんと議論したときに、じつは味じゃないよねって話になって。じゃあなにかって、ひと言でいうと「チーズケーキがもたらす時間」なんです。

つまり、「あのひとと食べたいな」と考える時間、届くまで「まだかな」と待ち焦がれる時間、そして大切なだれかと食べる時間……そんな「いい時間」を連れてくることが、Mr. CHEESECAKEが愛される理由だよね、と。チーズケーキは主役じゃない。あくまで、サブ的存在なんです。

だからこそ、リニューアルでは「シズらせすぎない」ように気をつけました。シズル感って、主役のふるまいじゃないですか(笑)。「おいしいですよ〜!」ってゴリゴリに主張してくるから、受け手の解釈も必要ないし。


でもそれって、余韻がないでしょう。なので反対に、受け手に意味を委ねられる余白や、なんとなくいい時間を体験できそう、あのひととおしゃべりしたいなと感じさせる空気感を意図してデザインしました。

デザインで行動を変える

もうひとつ、リニューアル時の大きなポイントがあります。それがキービジュアルの刷新といった「目に見えるかたち」ではなく、「行動」のデザインにトライしたことです。

それまでのSNSの投稿を見ていて、みんな Mr. CHEESECAKEを撮るのに苦労しているなって気になっていたんですね。1本まるごとかカットするかとか、立たせるのか寝かせるのか、とか。結果的に世界観がなく、バラバラに見えてしまっていた。

そこで公式発信を通じて「こういうふうに撮ればいい感じになるよ」と伝え、それによって「SNSに投稿される写真でも統一感をつくること」を目指したんです。この試みを実現するため、スマホかつ自宅で再現できる色味やレイアウトを意識した絵作りをしています。


じつは、ファッションにはこうしたフォーマットがあるんですよ。こんな服のときはこの角度でこのポーズって。それに、ブランド公式のビジュアルに寄せる文化もある。あれを応用できないかとずっと考えていて今回試してみたわけですが、個人的にはうまくいったんじゃないかなと感じています。だってみなさんの投稿、めちゃめちゃすてきじゃないですか?

「走りつづける」パートナーとして

Mr. CHEESECAKEのデザインは、ぼくにとっても特別な仕事です。

通常、クライアントから依頼される仕事では数ヶ月間がっつりコミットして「走りきる」イメージですが、 Mr. CHEESECAKEの場合はちょうどいい距離感で「走りつづける」イメージ。長期的に関わることで、かたちをつくるだけでなくどんどん変えていけるのがおもしろいですね。

だから限定フレーバーのビジュアルも、毎回必ずあたらしい挑戦を混ぜ込むようにしています。置きにいかないぞって決めている。たとえば、2周年記念フレーバーの「sakura ichigo milk」の包装紙。


いつものシンプルな姿に比べて、ずいぶんかわいいですよね? もしかしたら Mr. CHEESECAKEらしくないかもしれない。でも、きっと受けとった瞬間にテンションが上がるものになると振り切りました。

正直ぼくのなかで、「Mr. CHEESECAKEらしさ」ってできあがっていないんですよ。まだまだ手さぐりです。

ただ、そのときの環境や社会状況のなかで最高のクリエイティブを積み重ねていくことが、いずれブランドをつくるだろうと考えていて。その積み重ねの中からみんなのこころに残るものが「ミスチの姿」になっていくはずなんです。

もちろんブランドらしさをつくりこみ、こだわるのもひとつのやり方です。でも、ぼくたちはそうはしない。作り手が意志を持って「残すもの」ではなく、選ばれて「残るもの」によって輪郭を描くのがこれからのブランドのつくりかただと思うし、いままさにそれを実験しているわけです。


とはいえ、これまでは常に綱渡りのスケジュールで、「一発OKじゃなきゃ詰む……!」って状況も多々ありました(笑)。いま、ようやく落ち着いて「これから」を見られるようになってきたところです。お客様やチーム、そして自分自身のフィードバックを生かしながら、もっといろいろトライしていきたいですね。

あとは……タムさんやチームに、フラットにもの申せる関係でいつづけたいです。「それは Mr. CHEESECAKEにとって価値があるか?」って。それがブランドを担う、ぼくの存在意義だと思っていますから。

TAKAYA OHTA profile
DESIGNER / ArtDirector
1989年沖縄県生まれ。立教大学経営学部卒業後、株式会社 monopo 入社。コーポレート・アイデンティティから Web デザインまで幅広いクライアントワークを担当。2016年に株式会社ペロリのアートディレクタを経て、2017年独立。スタートアップ企業と協業しアイデンティティ・デザインの設計・制作に従事する。

タカヤさん、ありがとうございました。

(取材・執筆:田中裕子)

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