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岩手県盛岡市にある考古学の会社。遺跡や出土遺物の三次元データ化、図面作成を行なっています。3D解析技術の研究も積極的におこなっています。
http://www.lang-co.jp/corner721680/recruit.html
株式会社ラングは2003年に創業した岩手大学発ベンチャーです。考古情報デジタル処理会社として、先端技術を活用した埋蔵文化財の形状計測を手掛けています。
「誰もが簡単にアクセスでき、理解できる情報」にすることをミッションに、最先端の3Dデジタル技術を駆使し、新時代の考古学を創るため日々奮闘しています。
今回は、考古学×デジタル処理技術を事業の柱とするラング社を設立した経緯や、会社としての使命感について、代表取締役の横山に語っていただきました!
プロフィール
横山 真(よこやま しん):大学、大学院で考古学を専攻したのち、株式会社ラングの取締役に就任。現在は代表取締役として、発掘調査の効率化および考古学の発展に貢献する。
小学生の頃でしょうか。私が生まれ育った地域は畑や田んぼが広がっていて、毎日宝探しのように土器や石器を拾って集めていたことを覚えています。
高校時代、進路を考える際に、ふと幼かった頃の経験がよみがえってきて。そういえば、古代の遺物を収集することが楽しかったなと思い、大学では考古学を専攻しました。
大学院を卒業すると、すぐに当社の設立準備に着手しました。
ラングは工学研究者である父の研究室の技術をもとに興した会社なのですが、その技術が本当に有効なのかということを2年ほど検証したうえで、2003年に会社を立ち上げたという経緯です。
そもそも、私自身は会社をつくりたいとか、社長になりたいという思いが強かったわけではないんです(笑)。ただ、当時は国立大学の法人化が進んでいた時期で、大学発のベンチャー企業が多く設立されていて。
私がふと周囲の方々に「画像処理の技術を考古学に応用できるのでは」といった話をしたところ、「会社を立ち上げたらいいのでは」と背中を押されるように取締役(設立当時)、そして代表を務めることになりました。
そうですね。ただ、結果的には起業してよかったと思います。考古学の場合、研究機関に所属してしまうと、どうしてもアプローチの幅が限定されてしまいがちです。
民間企業であれば、会社として利益を確保し、その利益を次の開発に活かすというサイクルで事業を継続できるので、新たな技術開発に乗り出しやすいというメリットがありますね。
たとえば遺跡は、道路建設などで取り壊しが必要な際、その状況や遺物を紙の調査報告書にまとめることが慣例化されています。ただ、紙の報告書では、一握りの遺物しか公開することができず、残りのものは収蔵庫に保管され、現地に行かなければ遺物の情報を得ることが難しい状況になっています。
そうした状況に不便さを感じ、3次元計測技術を用いることで、より多くの遺物をデータ化していきたいという思いを持つに至りました。
当時はまだ世の中的にも3D技術への注目度が低く、当時ラングは他とはまったく異なる思想でデータ化に取り組んでいたのですが、上手に差別化ができていない状況が長く続いていました。
そういう状況を脱する1つのきっかけとなったのが東日本大震災だったんです。
はい。震災直後には、人も会社もいとも簡単になくなってしまうんだ…という現実を改めて認識しました。平時のような営業は長期間ストップすることが容易に予測でき、遅かれ早かれ当社もいずれ会社をたたむことになるだろうと覚悟していたんです。
ただ、会社がなくなった後も「この時代にこんな技術思想をもった企業があったんだ」ということを、世の中に伝えたいという思いが湧いてきて。
学会での論文発表などは震災前からも積極的に取り組んでいましたが、もっと平易に、かつ広く伝えられる手段がないかな、と。そこで、当時のメジャーな手段で手早く始められる「ブロク」に注目し、連載を開始することにしました。
そうですね。もちろん同業他社の方の目に触れることも見越して、公表を決断しました。最初は当社の技術や考え方に批判を受けることも覚悟していました。
ところが、思った以上にプラスの反響が大きくて。賛同、共感してくださる考古学業界の方も多く、その後シンポジウムや学会などで「3D考古学」に関するプレゼンをさせていただく機会が増えました。復興のために効率よく遺物を整理することが求められるなかで、学会でも3D技術への関心が高まってきた結果だろうと思っています。
世の中全体のIT化、DX化の流れが挙げられるでしょう。
あとは、2000年代に入り、大学の学習システムが変わってきたことで、従来の報告資料の図面を書ける若手人材が減ってきています。
考古学業界における世代交代や効率化の推進といった社会状況も後押しして、当社の技術が必要とされる機会が増えていった印象です。
1つがSOMAの開発です。SOMAは大量の小さな遺物を効率的に記録することを目的とし、ラングが岩手大学と共同で開発した3Dスキャナです。
以前は、考古学といえば遺物の製作技術や形態が論点の中心でしたが、研究の視点は年を追うごとにどんどん多様化していきます。ただし、この多様化した視点に応えられるデータをとり、公開するシステムがない限り、考古学者は現地に赴いて膨大な資料からデータを自らとる作業を行う必要があります。私自身も若い頃は長期遠征を繰り返しながら、そのような作業に従事していました。
たしかに成果が出ると楽しいですし、人脈も広がるのですが、時間的・金銭的なコストも大きくて。そうした問題を解消するために、画像処理の技術を活用し、効率的な記録が可能なSOMAの開発に乗り出しました。
はい、各地の機関でSOMAを導入いただいたことにより、2022年度は1万件以上の遺物の解析が可能となりました。ご利用いただいているみなさまからは、「遺物にダメージを与えずに記録をとることができる」「作業の効率化を実感している」といったお声をいただいています。
3次元データでしたら、誰でも簡単に情報にアクセスすることができ、情報の読み取りも容易です。これらのデータを公表することで、普段馴染みのない人たちにも考古学の魅力を伝えるきっかけがつくれるのではないかと考えています。
そうした未来を実現するために、今後はさらに多くの自治体や団体、民間企業にSOMAを展開していく方針です。また蓄積されたデータをより活用してもらうための取り組みも推進中です。
全国の発掘調査費は、1997年にピークを迎えましたが、現在はその半分程度になっています。
ただ、今はまだ、出土したすべての遺物のなかのほんの一部しか公開できていない状況です。時間や費用などの都合で記録されていない小さな破片資料まですべて公開することを考えると、計測する遺物の量自体が減っていくわけではありません。
そのような意味で、業界としてもまだまだ発展していく余地があると考えています。
これまでは図面の委託業務がメインでしたが、SOMAなどシステムの提供を中心とした事業に転換をしていく過程で、新たな技術の開発や改良に携わる人材を増やしていくことが喫緊の課題です。
現在、エンジニアリング関連の業務に携わる人間は社内で3名という状況です。先ほどもお話ししたように、SOMAをより多くの機関で活用してもらう動きを加速するうえで、何よりもマンパワーが必要になってくると考えています。
チームワークのよさが特徴ですね。
当社は現在、役員を含め正社員4名と、約10名のパートの方々が在籍しています。1つの案件に対応する際、担当者を決めて行うのではなく、全員でいっきに仕上げる体制をとっています。なので、全員で密にコミュニケーションを取りながら動いていますし、役職の垣根もなく、とても賑やかな職場ですね。
特にパートのみなさんは、コミュニケーション能力や処理スキルが高い方が多く、とても助かっているんですよ。
「裏方」的な役割を果たしながら、世の中に貢献できる事業を展開している点が当社ならではの強みだと思っています。
業界内でのシェアを拡大するというよりも、どの遺物にもラングの技術的なエッセンスが少しずつ入っているような状態をつくることが私の目標です。最終的には、調査報告書のデータの標準化という業界全体の大きな課題に貢献できればいいですね。
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