現在金融業界には、多種多様な課題が存在しています。400Fはその中でも消費者が抱く「お金の不安」に着目し、「診断」を切り口にしたアプローチを積極的に行っています。
人によって異なるお金の潜在的なペインに取り組むのは、実は簡単なことではありません。そこで今回は、CPOである加々美さんにインタビュー。400Fがどのようなスタイルで課題解決を行おうとしているのか、学術的な視点も踏まえながらお伺いしました。元クックパッドの加々美さんが、なぜ「食」から一転、「金融」の世界に足を踏み入れたのかについても語っていただいています。
食から金融へ。万人の生活に根ざす課題解決にモチベーションを持った
―加々美さんは前職がクックパッドでしたが、なぜ飲食業界から金融業界へ転職したのでしょうか。
加々美:食も金融も人々の生活の根幹に関連するもので、万人が問題を抱えている点では同じだからです。
もともとクックパッドには、ビジネスモデルの美しさに惹かれて入社しました。創意工夫をしてレシピを作っても、家族に褒めてもらえない人たちの人間的なペインを「レシピ投稿」という形で満たし、レシピを探す人が実際に作って感謝される。クックパッドのビジョンである「毎日の料理を楽しみにする」の通り、リアルに根ざした付加価値を生み出していました。
400Fに入社したきっかけ自体は知人からの紹介でしたが、私にとって「お金」に関する課題解決も、「食」と同様に生活の根幹に関わるという意味で、大きなモチベーションになりました。それに、ネット検索をすれば衣食住に関する課題はある程度解決できますが、金融課題に関する適切な答えはなかなか出てきませんよね。この現状に、大きな問題があると考えました。
「今」を豊かにするためのお金の将来設計に課題がある
―現在の金融業界には、消費者目線で見るとどのような課題があるのでしょうか?
加々美:現代の人々には、お金に関する漠然とした不安があり、それゆえに人生においてやりたいことができないといった現状があります。例えば、子供が欲しいけれど経済的な理由で産めないのは、切実な問題ですよね。もしくは、子供を産むという選択肢を選べない状況に気づかない、過剰適応して「子供はいらない」と言っているだけの可能性もあります。
金融が抱えている課題の解決は、こうした人間の生きている価値につながるものであると捉えています。実際、人生の早い段階で長期の積立投資の判断ができれば、20年後の家計に大きなインパクトが生まれます。その結果不安がなくなって人生計画を立てやすくなり、「今、やりたいこと」を妥協せずにいられるのです。
―では金融業界のプランナー目線だと、どのような課題があるのでしょうか。
加々美:金融業界の売り手には、「安価にリードを獲得して、とにかく高額な商品を売ればいい」という意識があります。その結果、マス層(金融資産3,000万円未満層)に対して身の丈に合わない高額商品を販売するようなケースが横行するのが、課題の一つです。特に大企業に務めている若い方が、ここに対して課題感を抱いている印象ですね。
ユーザー自身が把握していないペインやニーズを診断で探り当てる
―400Fは、以上のような金融業界の課題に対してどのようにアプローチしているのでしょうか。
加々美:当社は金融サービス仲介業や保険代理店業を行っている企業なので、まずは我々自身が企業規模を拡大し、エンタープライズ企業と連携していくことで、消費者のお金に関する選択肢を増やしていこうとしています。
そのためにもまずはユーザーの方々にお金の相談をしていただく必要がありますが、入り口としてそもそも自分たちが抱えるペインが何かを知っていただくために、診断という形を採りました。当人が課題だと思っていることが本当の課題とは限らない可能性があるため、こちらから顧客の情報を適切に定義して、ロジックに当てはめていくのです。「ユーザーが欲しいものを与える」構造では、そもそも問題解決につながらないという、逆説的な考え方ですね。
―正しい課題を見定めるために、どのようなプロダクト開発をしているのでしょうか。
加々美:第一に、自分たちの立てた仮説に対して、データや研究を参照して論理的整合性を作っています。これは当然のことですね。
もちろんN1インタビューでユーザーの反応も深掘りしますが、我々が探るのは表面的な回答ではなく、人間の行動に関する原理原則です。そうした人間の背景、構造を見定めた上でユーザーのニーズを定義し、プロダクトとして提供しています。
創意工夫で「お金の相談」を促し、10年後のスタンダードを目指す
―ユーザーが想定していなかったニーズに納得感を持たせるのは難しいと思いますが、どんな工夫をしているのでしょうか?
加々美:実際にお金の相談をしたいと思っている人は、全体の7%未満だと言われています。我々が手掛けるのは「糖尿病を予防しましょう」レベルの未病領域に近い話で、そもそもユーザーは、不安はあっても不満はない状態だからです。バーニングニーズにはなり得ない部分なんですね。そういう意味で、「FPにお金の相談をしましょう」と直接伝えても意味がないことは、常に留意しています。
しかし、まずは相談をしてもらわないと物事は前に進みませんから、この点は行動経済学を駆使した創意工夫を行っています。例えば「隣の人の年収を知りたくない?」というキャッチフレーズの広告もその一つです。ユーザーは広告が気になったら深く考えずに診断をしてみるだけなのですが、そこから相談に至るための仕掛けを数多く用意することで、マス層を動かしていこうとしています。ユーザーが反応しやすい方法でPRし、最終的には正しい道へと接続するわけです。
―金融業界のターゲットは基本的に富裕層で、マス層をターゲットにしてもビジネスモデルとして成り立たない現状があります。一方、400Fはマス層を狙ってプロダクトを提供していますが、どんな勝ち筋を描いているのでしょうか?
加々美:もちろん事業運営に必要なコストと生まれるだろう収益を見込んで挑戦はしています。とはいえ、今後狙っていきたい規模まで成長するための方法は、今も模索している真っ最中です。
明確なデータをベースに改善を繰り返しながら消費者にとって支持されるものを市場に広めていけば、10年後のスタンダードになっていることは間違いありません。「なぜネットに金融情報がないのか」「なぜお金に関してはフラットな選択ができないのか」という素朴な疑問は今でも感じますし、ここをクリアにするために遠い未来を見ながら事業を進めている感じですね。
気楽な会話から生まれたアイデアを実行できる組織へ
―400Fのビジョンは加々美さんが作ったそうですが、どのような背景があったのでしょうか?
加々美:ビジョンの「やりたいをやる決断を」というのは、先ほどお話しした「経済基盤の有無によって、自分が選べる選択肢がほぼ規定されてしまう世界観」を前提に考えました。
そもそもこの考えに至った経緯は、学生時代に遡ります。私は先進国における創業・起業の割合について研究していたのですが、当時はフィンランドのイノベーション指数が高く、創業も多い傾向でした。北欧といえば、現役世代に対する福祉が手厚い、高福祉国家ですよね。北欧型新自由主義とも言いますが、私は福祉の予算を低くして自由競争を促すよりも、セーフティネットがあるほうが人はチャレンジをしやすいのだと仮説を立てました。つまり、お金に関する計画ができないと、人はやりたいことができないのではないかという価値観を昔から持っていたんです。これを、ビジョンに落とし込みました。
―バリューは「気楽にいこう」「リアルであろう」「優しくしよう」「クールコア」「ぶち破れ」ですが、金融企業でありながらこうした柔らかい言葉を選んだのはなぜですか?
加々美:ギスギスしているのが嫌だからですね(笑)。特に「気楽にいこう」「優しくしよう」のあたりですが、当社のようなtoCのプロダクトのPMFを探るようなフェーズにおいて、組織がギスギスしていると非常に悪影響を及ぼすんです。リラックスしながら会話して出てきたアイデアのほうが新しく良いものになりやすいですし、実行可能性も高まります。
「リアルであろう」「クールコア」は、ロジックを大切にしたい気持ちを示しています。論理的に考えて意味のない我慢や苦労はやめたほうがいいですし、かといって優しくしすぎて現実的な対応をしないのもNGです。
最後の「ぶち破れ」は、非連続的な成長を目指す意味を込めています。本当に意味のある製品を開発すると非連続的に伸びていくものですし、それこそが真の成功と言えるからです。
―最後に、400Fが求める人材について教えてください。
加々美:例えば8人チームの中に変な人が一人でも混ざっていると、残りの7人のパフォーマンスをガクンと下げてしまいます。そういう視点で考えて、私はとにかく人間的に「まとも」であることを重視していますね。
「まとも」とは、「ありがとう」や「ごめんなさい」が当たり前に言える素直さや柔軟性があり、データや真実に対して謙虚な方という意味です。仲間とワイワイやるのが好きな人も、歓迎します。