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周囲からの反対で始まった創業ストーリー

AuB(オーブ)はサッカー元日本代表の鈴木啓太が創業した、アスリートの腸内環境の解析を手掛けるスタートアップ企業です。これまで五輪代表選手やプロ野球選手、Jリーガーなどトップアスリートの腸内細菌を研究し、その知見をアスリートはもちろん一般生活者に還元する事業を進めています。

これまでに集めてきた検体は、28競技1400 検体以上。世界でNo1の保有数です。創業から4年間の研究を経て、アスリート特有の腸内環境を発見。日ごろから運動と食事に気を遣うアスリートの、腸に棲む菌の種類や割合の傾向を突き止めるなどといった成果を生み出しています。創業から5年以上たった今も、アスリートの腸内環境を研究し様々な研究成果を発表、また事業成果を生み出し始めているチームです


とはいえ、ここまで全てが順調であったわけではありません。そのストーリーを少しお伝えできればと思います。

周囲からの反対の声、それでも踏み出した一歩


「どうしてサッカー選手が研究開発ベンチャーをやるんだ。」起業を決意した鈴木に友人知人から投げかけられる声。それも当然、会社で働いたこともなければ、ビジネスや研究の仕組みを知りもしない。サッカーに人生の多くを捧げてきた人間でした。それでも彼は踏み出す決意をし、2015年10月15日に創業をしました。

昨今腸内細菌といえば様々な研究が進み、太りやすさ痩せやすさや、筋肉の形成、果てはメンタルや精神疾患との関係が明らかにされつつある領域だ。とはいえ、世の中から注目される領域だから足を踏み込んだわけではありません。全ては鈴木の原体験に通じています。


自分がやらなければならない理由を見つけたから

調理師の母のもとに育った鈴木は、幼少期から「人間は腸が一番大事」と“英才”教育を受けてきました。プロサッカー選手になった後も、腸を中心にコンディションを整え続けていました。思い出すのはU-23日本代表として臨んだUAEでの五輪予選。ほとんどの選手が下痢などで体調を崩す中、日頃の意識のおかげか、万全のコンディションで試合に入ることができたのです。文字通り自身のサッカー選手生命は、腸によって支えられていたのだと、鈴木は振り返ります。

現役も終盤に差し掛かるころ、トレーナーから腸内細菌を研究している人がいると紹介を受けたのです。その人と話をする中で、日頃コンディション管理を徹底するアスリートの腸を調べれば、面白い発見ができるのではとの考えが、鈴木に生まれます。


そしてもう一つのきっかけはサポーターの声でした。旧知のサポーターから「Jリーグができて20年、当時40歳の自分も今や60歳。体にガタがくるし、なかなか行きづらくなるよね」と言葉をもらった。いくら好きなものであっても、体の調子が良くなければ、それを続けことはできない。当然とはいえ、当時の鈴木には印象的な言葉でした。


アスリートのデータが、サポーターのコンディションを支える。より長くスタジアムに通い、時間を共有できる。そのようなことが実現出来たらなんと素晴らしいことだろう、と。アスリートはファンを楽しませるだけではなく、ファンの健康に寄与できる、そんな世界が作れると鈴木は信じたのです。だからこそ自分がやりたい、やらなければならないと思い、会社を立ち上げました。



アスリートの便を収集する日々

「うんち頂戴」。鈴木は今も、アスリートの腸内細菌を集める“営業”に出て回っています。初めてのそれは2016年1月、プライベートでも親交のあるラグビー選手、ワールドカップ日本開催の日本代表、松島幸太朗選手でした。第一声は「えっ?何言ってるの?」。若干引き気味の松島選手対して、鈴木は「将来のため、アスリートのためになるから」と、半強制的に押し切ったと言います。他にも、箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた陸上の神野大地、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルス(現東京ヤクルトスワローズ)の嶋基宏ら選手が、続々と協力してくれます。

こうして人脈を使い、集めた便の数は、スポーツ選手700人分を越え、その検体数は1400を突破しています。



大学等との共同研究進む、学会等で成果発表

便の収集と同じく、創業時から注力してきたのが、腸内細菌の研究です。便のDNAを大学教授ら国内有数の研究機関と解析し、菌の種類や数、その構成状況をデータベース化しています。

現在、筋肉不足の課題を抱える選手は腸内細菌の多様性が低いことや、選手や競技によって腸内細菌の種類や数、構成の特徴が異なることを突き止めています。加えて、筋肉の形成やヒトのストレスに影響を与えていそうな菌の特定まで、研究が進んでいます。

研究テーマの設定は、鈴木の経験が生きています。「アスリート目線」に立ち、「体重コントロール」や「筋力」「メンタル」という選手の課題にテーマを置き、各大学や研究機関と共同で進めています。

「アスリートと一般生活者の腸内環境は異なるのか」というテーマから取り組み、腸内環境の多様性(※1)の高さや酪酸菌(※2)の多さに違いを見出すなど、4年もの時間を掛けて成果を残していきました。その他にも「高齢者のアスリートと一般高齢者の腸内環境の比較」に関する研究を、日本体力医学会で発表。アスリート(マスターズ陸上の選手)の方が一般より、感染症リスクが低い(病原菌を含む種類の菌が少ない=病原菌の発現率が低い)傾向等を発表するなど、これまでの研究とは異なる独自の視点で様々な知見を明らかにしていきます。



4年間の研究結果がいよいよ花開こうとする2019年4月、これまでの成果をすべて失いかねない危機に

「あと2ヶ月で資金が底をつく」

実はこの頃(2019年4月頃)、鈴木はプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。令和どころかGWさえも迎えられるかどうかの正念場で、鈴木は創業以来「最もつらい」と語る時期を迎えていました。

実際に、当社のメンバーは当時を「今まで見たことのない疲れ切った顔で、ため息ばかり。選手時代にも見たことのない表情でした。(本人は打ち明けませんでしたが)切羽詰まっている様子で、何かあるのは明らかでした」と振り返ります。

もちろん、そんな状況は数ヶ月前から見えていて、「気合と根性しかない」と、金策に奔走していました。けれども自己資金やエンジェル投資家から調達したお金も残りあと2ヶ月で底をつく、そんな危機的状況だったのです。

満を持して開発中の一般向け商品もありました。蓄積し続けた研究結果、4年間の結晶がようやく花開く、そんなところまできていました。

そして何よりも、頭を抱えたのが、「宝のデータとなった、好意の便検体を無駄にしてしまう」こと。これまで協力してくれたアスリートのことを考えると、「耐えがたい気持ちだった」と言います。


なんとか危機を乗り越え、研究成果を事業フェーズに

万策尽きかけた2019年5月のGW明け。気合と根性がようやく実ります。複数の投資家からの出資が決まったのです。その後も大正製薬や三菱UFJキャピタルからの出資も決まり、ようやく研究成果を事業フェーズに展開していく下地が整ったのです。


そのうちの一つがフードテック事業です。

これまで培った腸内細菌のデータをもとにした、腸内環境を整えるフードテック商品の企画開発、発売を行っていく事業です。これまで4年間かけて500人・1000検体以上のアスリートの便(腸内環境)を解析した結果、日ごろから運動と食事に気を遣うアスリートの、健康的な腸に棲む菌の種類や割合の傾向を突き止めてきました。この研究で、ヒトの腸内の健康度合いは「酪酸菌の多さ」がカギを握ることを明らかにし、合わせて「菌の多様性(種類の豊富さ )」が重要な役割を果たすことを確認しています。

その知見を生かして、酪酸菌をメインに、29種類の菌を配合した「Athlete Bio Mix(アスリート・ビオ・ミックス)」を開発。



19年12月には、Athlete Bio Mixをベースとした腸内細菌サプリメント「AuB BASE(オーブ ベース)」を、自社ECサイト AuB STORE(https://aubstore.com)を通じて発売開始するなど、ようやくこれまでの研究成果を事業として世の中に還元していくことがスタートできたのです。




五輪選手から新種のビフィズス菌を発見、国際特許取得へ

また研究サイドも加速し、20年9月には五輪代表選手から発見したビフィズス菌を発見し、国際特許申請へ、という実績を積み上げました。当初の鈴木の直感で進めたものが、徐々に形になり始めています。



すべての人を、ベストコンディションに

鈴木は語ります。

「結局、人にできることは日頃から健康に、私たちの言葉でいえばコンディションよく日々を過ごせる積み重ねができているかどうかだと思う。自分の体のセンサーを磨き、どうすれば心地よい一日が過ごせるのか、前向きな時間を積み重ねられるのかが大事なのだと思う。

“コンディションを整える” 

そのために必要なことを、アスリートの知見を活かし、世の中に届けていくことが自分の使命だと信じ、これからも一歩ずつ進んでいきたい」と。

私たちの取り組みはアスリートのためだけのものではありません。この活動が様々な形で多くの方に届き、貢献していけるよう、これからもチーム一同、歩みを進めていきます。


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