アスタミューゼが展開する各事業の基盤であり、出発点ともいえる知的情報プラットフォーム『astamuse.com』。
『astamuse.com』では、世界中の課題を解決し、未来を創る人のプラットフォームとして「未来を創るために解決すべき課題」を公開してきました
現在、「未来を創るために解決すべき課題」を「未来を創るために挑戦したい社会課題」としてリニューアルするプロジェクトが進行中です。
前回のインタビューではこのプロジェクトが始まった経緯や作成過程についてご紹介しました。
引き続き、プロジェクトメンバーの波多野さんと中村さんに話を聞いてみます。
波多野智也(はたの ともや)
広報・PRリーダー、オウンドメディア『astavision』の編集責任者。
中村まり子(なかむら まりこ)
有望成長市場に特化した転職支援サイト『転職ナビ』のマーケティングを担当。
「〇〇を解決する」ではなくて「〇〇を実現する」
―社会課題をライティングしていくうえでぶつかった壁として、どうしても悲劇的なラベルが多くなってしまうといったお話がありましたが、社内外での反応はどのようなものでしたか?
波多野:
まず、アスタミューゼの社内や顧客がどういう人たちかという話をしたほうがいいと思いますが、アスタミューゼの社員は比較的年齢層が高くて、30代以上が中心なんですね。どちらかというとアカデミアの出身だったりとか、前職で長く活躍していたようなタイプが多い構成です。
また、既存の顧客は大手企業の経営層の方々が中心となっています。
社会課題を実際にastamuse.comのWEBサイト上でリリースして、社内のコンサルタントが顧客の方に資料をお見せしたりする中で、事前に想定していなかったリアクションとして「非常に思想的な何かを感じる」というものがありました。しかも、それはどちらかといえば改善すべき、否定的なニュアンスを含んでいました。
僕らとしては、あまりウェットな感情が出ないようにラベルはかなりドライに書いたつもりだったのですが、色々な方からフィードバックを受けるなかで、これは手を加える必要があるなと感じました。
―具体的にはどのように書き換えていったのでしょうか?
波多野:
最初、社会課題のラベルは「〇〇を解決する」という表現で統一されていたんですが、「〇〇を解決する」となると、〇〇のところには解決しなくてはいけない対象物、たとえば「虐待」とか「暴力」とかが入るんですよ。こういったものが100個の集合体となると、どうしても重苦しいものが漂ってしまいます。まずこれをやめて、「〇〇を実現する」という表現に変えました。
中村:
たとえばですが、「貧困に苦しむ子供が何万人います」という現状を訴えれば訴えるほど悲壮感が漂ってしまうし、相当の覚悟をもって臨むべきだ、といったニュアンスが滲み出しすぎてしまいます。
そうではなくて、未来志向でどのような社会を創っていきたいかという方向に振り切ることで、ラベルの問題が解決されていったなと、いま振り返ってみると感じますね。
アスタミューゼが初めてミレニアル世代と出会った
―前回の振り返りでもうひとつ、「これから未来を創っていくミレニアル世代の方たちが、社会課題に対してどのような意識を持っているのか、課題ベースで仕事を選ぶとして、どのような興味・関心を持っているのかが知りたい」という話が中村さんからありましたが、よくよく考えると我々、ミレニアル世代とはあまり接点がないですよね…
波多野:
先ほどお話ししたとおり、アスタミューゼの社内や既存の顧客でいうと、その世代が中心ではないですね。
でも、社会課題に挑戦しているベンチャーや技術を探しているなかで、決定的な仕組みを生み出している人の中には若い人が結構いるということに気づきました。
例えば、最近ブロックチェーンが話題ですけども、イーサリアム作った人って確かまだ23歳とか24歳ですよね。
また、いままで僕自身が広報をやっている中で、ミレニアル世代と呼ばれる、ものの考え方や価値観が違ったところのある人たちにアスタミューゼのビジネスモデルの話をしても、従来の説明の仕方では刺さらなかったということがありました。
今回、社会課題という新たに生まれたもので説明したらどうなんだろう、というのは個人のヒアリングレベルでは結構やりましたね。
―なるほど。そもそも「ミレニアル世代」ってアメリカ生まれの概念で、いわば輸入物なわけですけど、日本にも同様のシーンというか、「場」みたいなものってあるんですかね?
波多野:
自分たちはミレニアル世代であるという意識を持って、実際に何かしらのアクションを起こしている人というのは、たとえば起業家であるとか、新興メディアの中心人物といった人たちを除いてはそんなにいないという気がします。
僕自身はロストジェネレーション、失われた20年と呼ばれる世代ですが、全然そんな意識ないですし、ミレニアル世代と呼ばれる人たちにとってもそれはあまり変わらないんじゃないかと思います。
ただ、いろんなヒアリングを通してひとつ思ったのが、価値観の変化です。
自分より上の世代が訴えかける「これが問題」「これが正しい」といった情報を、あまり信用してないなと。
理由は、自分が物心ついた時から日本の経済は停滞しているので、それを作り上げた上の世代が「こうすればいい」と言っても「でもそれであなたたち勝ててないじゃん」と感じてもおかしくないからです。
だから大人の訴えかける社会課題も、イマイチ響かないような気がしています。
上の世代の人たちがこうやった方がいいよとか、社会ではこうあるべきだよみたいなものにはあまり重きを置いてない。
僕はもう少し上の世代ですけど、日本の高度経済成長期やバブルを何となく知っていて、大人の言うことは学んだほうがいいという考え方ですが、そういうものにとらわれていないですね。
それよりも自分の価値観の中でしっくりくるものを受け入れるという考え方のほうが強いように思います。車を持つのがなんでかっこいいのかわからないので買いません、といったような。
―中村さんはミレニアルの上のほうにあてはまる世代だと思いますが、ミレニアル世代として自覚とかあります?
中村:
あまりないですね。
ただ、多感な年頃に何を経験しているかというのが、その世代の価値観の形成に影響しているとは思いますし、たしかに物心ついたときにはもう経済的な不安というのはありました。
そうはいっても自分より上の世代の言う熱意だとか、根性論みたいなものもわかりますし、一部は当てはまって一部は当てはまらないという感覚を持っています。
ミレニアル世代、社会課題にピンとこない説
―まあそうですよね。ヒアリングというのはどういった方たちを対象に行ったのでしょうか?
波多野:
『UNLEASH』など、日頃から20代を中心とする新しい価値観を持った人たちに情報を発信しているメディアの方々が中心です。
それに加えて、astavisionで取材している企業の中でも若い方で非常に面白い取り組みをされている方たちがいるので、そういった方たちの話からもヒントを得ています。
―ではまず、メディアの方たちと議論された中で感じたことをお聞きできますか?
波多野:
「自分ごと化」って言い方ありますよね。自分ごと化できるかどうかの基準がすごくシビアで、環境問題とか途上国の貧困の問題とか、知識としては知っているけど、そんなことより自分の隣にいる人との関係性のほうが大事、という印象を受けました。
世の中の課題には解決し始めているものもあって、たとえばCO2に関していうと、この15年くらい、地球上のCO2って減ってるんですよ。
では、それによって地球上に笑顔が増えましたっけ?というとそうとも言えない。
じゃあ大人たちが言っているCO2削減すべきというの本当なの?というところをちゃんと問いかけるのがこの世代という気がしました。
社会課題の解決を繰り返せば人類や地球はハッピーなのか、という問いに対してイケてる答えが返せないと、もう興味がないのかなと。
ただ一方で知的好奇心はちゃんとあって、わざわざフェアトレードの企業に自分から志願して入社する人もいるし、パタゴニアなどが認証を受けている「Bコーポレーション」(米国の非営利団体 B Labが運営している認証制度で、環境、社会に配慮した事業活動を行っており、B Labの掲げる基準を満たした企業に対して与えられる)みたいな活動も受け入れられています。
中村:
ミレニアル世代は日本においては人口比率の低い世代ですが、労働力として、またそれ以外の役割においても、求められる期待値は今後もさらに高まっていくと思っています。
日本のミレニアル世代が、一部の行動的な方を除いて、社会課題にピンときていないという話がありましたが、考えてみると若い方の興味範囲が狭いというのは当たり前のことですよね。
いまの40代の方が20代だった頃に地球の裏側のことに対して一生懸命に考えたかっていうと、多くの方はそうじゃないと思うんです。
まずは自己の成長があって、次に、自分が置かれた世界の課題を解決することで、はじめて世界の外側にも関心が向く。
ミレニアル世代がそうしたキャリアの発達を実感できるような働き方を作っていく、情報を発信していく、ということが今後10年くらいの間に必要になっていくと思います。
社会課題よりも"イケてるソリューション"
―では、astavisionで取材された企業の方からはどのようなお話が聞けましたか?
波多野:
たとえばですが、社員数十人規模の、自分たちの事業を伸ばすのに精一杯なベンチャー企業が「途上国の食糧支援をがんばります」といっても、そんな余裕はないだろう、となるのが普通ですよね。
実際には日本国内のベンチャーで、飲食店の予約サービスを使うと自動的に途上国に食糧が支援されるビジネススキームを組み、事業を伸ばしている企業もあるんです。
ーいまastavisionを見てますけど、「飲食店の予約を通じて、自然と途上国を支援する"チャリティ予約"」とか、ソリューションをみれば課題が何なのかも想像つくようになってますね。
波多野:
そうです。課題と解決とか、シーズとニーズとか、みんな分けたがるじゃないですか。
でもたぶん、本当にイケてる仕組みって、ソリューションと課題がリンクしてるんですよね。
自分たちの事業が伸びると自動的に社会課題も解決されるという、ふたつの問題をひとつの仕組みでクリアするみたいなところがあるんですが、こういうビジネスモデルやテクノロジーの活用の仕方を思いつける人って世の中あんまり多くないと思うんですよ。
敗者が生まれても致し方なしみたいな考えは、国連が2015年に定めたSDGsでも「今後はそういう考え方をやめよう」となっていますしね。
そういう人たちをメディアで紹介し、「そうか、こういう考え方もあるのか」と気づけるようなことを発信していくのが、これからは肝になっていくのかなと思っています。
進化したアスタミューゼの「社会課題」を世に問う
―いろいろとミレニアル世代の話を聞いてきましたけど、これを受けてアスタミューゼの「社会課題」はどう進化していくんですかね?
波多野:
まず、社会課題のプロジェクトが始まった背景のひとつに「裾野を広げる」ことがあります。
となると、世代ごとに反応の違いがある部分を解消していく必要があると思います。
世の中の課題を解決することに将来的に貢献しそうな、たとえば研究活動をしてたりとか、起業家として活動していたりという人たちの中に20代の人はゴロゴロいますし、もっと言ってしまえば10代の人からも新しい動きが生まれ始めています。
そういう人たちにとって、僕らが出したものが「また旧世代の大人が編集した、よくありがちなつまらないものが」とスルーされるんじゃなくて、この編集や情報発信の仕方は面白いなーというふうにとらえてもらわないとまずいな、とは思っています。
でも、その手がかりがどこにあるかというのはまだちょっとわからないですね。
20代でイノベーティブな活動ができるポテンシャルの人たちって、「とにかくいま僕はこの原因不明な難病に取り組むんだ」といったように、問題解決への向かい方がシャープだなと感じる部分があります。
なので、astamuse.comには社会課題を100個並べていますが、そのうち1個が刺さればいいんじゃないかくらいに思っています。「他の99個は興味ゼロ。この1個は俺がやる」みたいに。
―では、ミレニアル世代の視点も得て裾野の広がったアスタミューゼの「社会課題」を、社内や既存の顧客の方々は、どう受け止めるでしょう?
波多野:
実は先日、かなり大規模なイベントで社会課題の話をする機会があったんですよ。
参加者はアスタミューゼの既存の顧客と近い層の方々なので、そこでどういう反応があったかというのはお話しできると思います。
―それは面白そうですね。次回はその話でいきましょう!
※この記事の続編「社会課題はじめました PartⅢ」は近日公開予定です。