前回の記事はこちら 好きなデザインってなんだ? #5 デザイナーと熱
デザインの現場では毎日何かしらのインプット・アウトプットをしているし、自分は好みがはっきりしているから「好きなデザイン」についてちょっと考えれば書けるだろう。なんて思いつつ、いざこのテーマに向き合ってみると、何か引っかかってうまく言葉にできない。タイポグラフィやファッションみたいな具体的な話をするのも、なんとなく抵抗がある。
このままでは書き進められそうもないと思ったので、まずはこの違和感の正体から考えてみることにした。
突き詰めればきっともっと複雑で、色々要因がありそうだけど、デザイナーは「クライアントやユーザーが好きなデザインってなんだろう」と考えながら制作しているからだ、というのが、僕が感じていた違和感の正体ではないかと思う。普段から他者を中心にして物事を考える癖がついているので、自分を中心にしてエゴを言葉にすることに慣れていないのだ。
さて、違和感の正体もわかったところで、本来のテーマに戻って考えてみる。このまま素直に「僕の好きなデザインは他者のことを思って作られたデザインです」なんていう話に持っていければもっと簡単に書き終えることができたんだけど。書きながら思ったのは全く別のことで、僕はどうやら「作り手のエゴが見えるデザイン」に惹かれているようだ。
ただ、ここでいうエゴは、単純に主張が激しいものを指しているわけではない。クライアントやユーザーといった他者のこと考え抜いた上で、さらに上乗せされたエゴ……作り手の執念とでもいうのだろうか。
とりわけ僕は、ビジュアルデザインを自分の強みにしていきたいと思っている。そのため、Webだとか紙だとかデザインの媒体に関わらず、ブランドやサービスなんかの価値や世界観は充分すぎるほど表現された上で、細かいタイポグラフィへのこだわりや挑戦的なレイアウトがされているものをみると、好きをこえて嫉妬すら覚える。
正直にいうと、僕はまだ、「クライアントやユーザーが好きなデザインってなんだろう?」ということを考えるだけで、日々いっぱいいっぱいである。だからこそ、エゴの部分まで表現されているものに憧れ、嫉妬し、気づいたら好きになっている。きっとそんな感じなんだと思う。
さあ、連載のトリを飾るのは、膨大な知識量でいつもいろんな話をしてくれる吉岡さん。どんなことを語ってくれるのか今回も気になります
by Yusuke Fujikawa
日本大学理工学部建築学科卒業。東京デザインプレックス研究所卒業。フリーランスを経て、現在に至る。